酒場の英雄

第二章 「灼熱の覇者」


「それでですねぇ……」
 今回の依頼でのことを村長に説明していると、そこに一人の大男が現れた。
「村長さん、頼まれた仕事終わりましたよ」
 頭装備を外しながら言う。
(なかなかの重装備……傷も多いな……熟練者かな?)
「珍しい装備を見ると気になっちゃうよネ〜♪」
「うん、ディアブロス装備……ん?良く見ると強化版か……」
 彼の装備のいたるところにシンボルカラーである赤の勲章が散りばめられている。
(赤……たしか、討伐だったよな…)
 ディアブロスSを装備している彼は報酬をもらい、報告をしている。
 村長さんとの会話も途切れてしまったので、勝手ながらもディアブロ装備をジロジロと観察する。
「そんなに珍しいかい?」
 村長さんとの会話を終えた彼が自分をジロジロと見つめている二人に話しかけてきた。

「ディアブロスと言ったら砂漠の暴君、凶暴なことで有名だよな」
「そうそう、その戦闘の緊迫感が堪らないっていうかね。仲間と何匹も狩りに行ったよ」
 しばらくの間、二人は狩りの話で盛り上がった。
「君とは話が合うねぇ、良かったら一緒に狩りに行かないか?」
「お、いいねぇ。俺はユウジ。あんたは?」
「俺はディアだ。よろしくな!」
 そして、ユウジとディアはフレンドになった。
「アタシはぁ〜?」
 不機嫌そうにミリアが話しかけてきた。
 なぜ不機嫌なのかと言えば、男二人の会話に入れなかったからだ。
「まぁ……三人でがんばろうな!」
「うん♪アタシ、ミリア!よろしくね♪」
「ゴホン。………それで依頼の報告、途中だったんじゃが」
(あ、すっかり忘れていた……)

 今回戦ったレイアはユウジがいつもドンドルマの依頼で狩っていたレイアとはどこかが違った……。
 攻撃が利かない……いや、ダメージは受けていた。しかし、それをもろともせずに向かってきていたように思えた。
 さらにあれほどの連続攻撃は亜種ほどのスタミナがないとできないはずだ。
 特にあの怪しく光る眼球は今まで見たこともない……。
 村長さんや他のハンター達にも聞いて見たが以前はそんなことは無かったらしい。
 この現象はレイアだけでなく他の飛竜種にもみられるらしく、ディアにきた依頼の話ではゲリョスだったそうだ。
 ミリアの話によれば、この現象が密林でみられるようになったのはここ2、3ヶ月のことで沼地、砂漠のほうに行くにつれて目撃例は多くなっているようだ。
「沼地、砂漠、その先は………火山地帯か」
 皆が息を呑む……それぞれの体はその先にある未知の恐怖に震えていた。

「村長さ〜ん!火山地帯についてなにか情報あるカナ?」
「ふむ…最近、火山地帯はちと危険らしくてのぉ」
 最近は火山へ行くハンターが極端に少なくなったらしい。さらに最近では妙な噂もたっているみたいだ。
「なんでも、飛竜種、つまりバサルモスやグラビモスの様子がおかしいみたいなんじゃよ……」
「飛竜種なら砂漠や沼地でもおかしいぜ?」
「いや、それとはまた違うみたいなんじゃよ。じゃが詳しい情報は無いんでな、詳細は不明じゃ」
「行ってみるしかないってことか」
 日が暮れてきたので調査は明日にすることにした。
 夜の火山での戦闘は危険を伴う。マグマの動きが活発化するために。
(グラビモス…か。リオレイアとは比べ物にならない大物だな……)
 ベッドに入り込みユウジは明日の強敵に向けて考えていたが、体が疲れていたせいか、すぐに眠りについてしまった……。

―――翌日早朝。
 自称熟練ハンター1人+熟練ハンター2人は村長のところに集まっていた。
「くれぐれも無理はせんようにな…」
「わかってるって!」
 ユウジは軽く答え、乗船した。
 心配顔でこちらを見る村長に見送ってもらい3人のハンターは出航した。
 火山までは船で数時間、着くまでは退屈な船旅である。
 雲は澄み切って、朝日に照らされた火山が怪しげな黒い煙を上げているのが遠くに見えた…。

 数時間後、火山に着くとそこには何艘かの小船が放置されていた。
 それは何人ものハンター達が火山にいる何者かに敗れ去ったことを意味していた。
「なんてこった……」
 しばらくの間、3人はその場で手を合わせて祈る。
「……さぁ、行こうか」
「ああ」
 目指すは火口付近、グラビモスがもっとも多く生息する場所。
 どことなく違和感を感じながらも道なき道を登っていく…。
 そして、火口付近についた頃には日は傾き始めていた。
 たしかに火口付近にはグラビモスがいた。
 しかし、誰が予想していたかそこにいたのは体内から光るように紅い鎧竜の姿だった。
「なにあれっ!?」
「亜種…じゃないのか…?!」
「ぼーっとしてる暇はくれないみたいだな」
「そうみたいネ!」
 ゴォォォォォォ!!
 グラビモスの土砂崩れのような咆哮が響く。
 ユウジは背負っていた2本の剣『ギルドナイトセーバー』を構えて走る。
 ギルドナイトセーバー、ギルドが誇る最高峰のハンターのみ所持を許される、水を纏った双剣。対鎧竜戦においてこれに勝る武器は数えるほどしかない。
「そこだっ!」
 腹部に潜り込み、双剣の手数の多い攻撃で切り刻む。
 いくら鎧竜の甲殻が硬かろうがその隙間を狙い、切り刻む連続攻撃。
「お、やるな…ではでは、俺も行くとしますか!!」
 ディアの得物は大剣。水竜・ガノトトスのヒレを使った蒼い刃を持つ剣。
 斬撃のたびに噴き出される超高圧の水は実際の刃を包み、岩をも容易く両断する刃となる。
「はぁっ!!」
 飛び上がって翼膜を裂き、そこから胴体、足へと斬撃を繰り出す。
 しかし、鎧竜はひるまない。足の爪を地面に食い込ませる。
「やばい!ユウジ!離れろっ!!」
「え?」
 グラビモスの甲殻から粉塵が舞い上がった、その瞬間。
 巨大な爆発。
 ディアは防具の重量と盾のように構えた大剣のお蔭でなんとか持ちこたえたが、ユウジは吹き飛ばされた。
「大丈夫かっ!?」
 ディアがユウジを追って振り返ったその時、
「あぶないっ!」
 すぐに体勢を直したグラビモスの体当たりが直撃し、岩に叩きつけられる。
「…なにっぅぐぉ!!」
 吹っ飛ばされた二人はグラビモスからだいぶ距離を離された。
 そこにミリアの回復弾が二人に着弾した。
「サンキュー!」
「ありがとう!」
「お礼はいいから気をつけてネ〜♪」
 それも束の間。
 ゴオオオォォォォ!!!
 3人はグラビモスの咆哮と共に口のあたりに光が集められ、腹部が異常なほど輝いているのを見た。

「隠れろっ!!」
 3人のハンターは岩陰へ飛び込む。
 その瞬間、あたりは輝く熱線によって光に包まれた。
(なんて動きの速さだ。攻撃の隙がほとんど無い……でも、隙がまったくないわけじゃない!)
 ふと、眼に入ったものは爆弾岩。しかも特大G級。
(あれならいくらグラビモスとはいえ、食らえば致命傷だろう。)
「よし、アレを使うぞ!」
 指を指して2人に伝える。
「怯んだ隙に大タル爆弾で吹き飛ばすぞ!」
「拡散弾もいくよ〜ん♪」
「ああ、頼む」
 ユウジが水を纏う双剣を両手に構え再び走り出す。ディアも続く。
 その2人よりを横切ってミリアの撃った徹甲榴弾がグラビモスの足に突き刺った。
 体内爆発。それを思わせる徹甲榴弾の爆発に怪しく光る紅い鎧が剥がれ落ちる。
 そこに走った勢いをそのまま大剣にのせた一閃。
 ユウジは双剣の十八番、鬼人化をし切りかかった。
 双剣は己の運動能力が一番大きく関わる武器と言っても良い。さらに運動能力の向上、つまり自らのリミッターを一時的に解除するため、双剣に宿る『鬼』に体を預ける。
 それが鬼人化。
「うおぉぉぉ!!」
 鬼のように激しく、踊るように切り刻む。
 ディアは反対側の足に回りこみ、切り上げる。
「いっけぇーーー!」
 足が少し浮く。
 そこへ研ぎ澄まされた命中精度で拡散弾が滑り込み、グラビモスはそれを踏みつけた。
 4つの爆弾が散ることなく同時爆発。
 片方の足は双剣の乱舞により踏ん張る力は残されていない。
 結果、鎧竜は爆弾岩の方向に倒れ込むのみ。

「爆弾セット完了!!」
「リョーカイ♪」
 合図直後の放たれた拡散弾はグラビモスの硬い甲殻に当たり、飛散、そして爆弾の着火の役目も果たす。
 ドドォォォォン!!
「よ〜し、特大の一発!!」
 爆弾岩での一発。
 しかし、爆弾岩の横にはグラビモスの姿は無く、倒れこんだ位置と変わらない場所に体から煙を上げている鎧竜の姿があった。
「なになにっ?!なにが一体どうしたの!!」
「……まさかっ!爆発を相殺したって言うのか…!?」
 しかし、拡散弾のダメージはあるようだ……腹部の甲殻はみごとに剥がれ落ちている。
 起き上がったグラビモスの口にはまた光が集められ、腹部が輝き始めた……。
「くそっ!もうあれに近づかせる手はないぞ!」
 岩陰に隠れながらユウジは叫ぶ。
 グォォォ……!!
「何っ!?今の声!」
 グラビモスとは違う、今まで聞いたことのない咆哮が聞こえた。
 その直後。
 ゴォォォォォ!!!!
 鎧竜の断末魔の叫びが聞こえた。
「おいおい、どうしたんだ!?」
 とっさに隠れた岩陰から恐る恐る向こうを除き見る……。
(熱っ!なんという熱気だ……!)
 そこには、鎧竜の亡き骸。
 そして、全身を蒼い毛に覆われた、4つ足の龍が夕暮れを背に立ち尽くしていた…。

 蒼い龍は辺りを油断なく見回している。
 岩陰に隠れている3人は、物音を立てないようにソっと近づいた。
「……なによあれっ!聞いてないわよっ!?」
「むぅ……あのグラビモスを一撃で仕留めた奴だ。油断はならねえだろうな……。」
 ディアは額に汗を垂らしながら蒼い龍の様子を窺った。
 その龍は誰も居ないと思ったらしく、今しがた自分が仕留めた「紅い」グラビモスを貪り始めた。
 そう、極上な鉱石の纏わりついたグラビの甲殻は鉱石を餌にする者には最高の獲物なのだ。
 ユウジは身を乗り出して、目の前の餌さに夢中になっている龍を見て言った。
「アレは……聞いたことがあるぞ。」
「なにか知っているのか?!」
「え?あの龍のこと?教えて教えてっ!」
 3人はさらに額を寄せ合った。
「この話は、俺の師匠から聞いたものなんだが……」
 ユウジは話し始めた。
「昔、俺の師匠がまだ新米ハンターだったころよりも前の話だ。ある寂れた辺境に小さな村があって、その村はまだ王都までの道が通じていなかったんだ。その理由は確証ではないが、王都と村を最短で結ぶ道を作ろうとしたが、そこにはなにか強力な龍がいるという伝説を持っている巨大な塔が建っていたからだそうだ。」
「ふんふん。それでそれで?」
 ディアは少し岩陰から顔を出し、蒼い龍の様子を窺った。
 まだ、鎧竜を貪っている様だ……。
 しかし、どこかその眼は怪しい光を放っていた……。
「…………?」
 ディアは疑いながらも、ユウジに向き直った。
 ユウジは話を続けた。
「その塔なんだが、太古から存在していると言われる神秘的な場所で、伝説ではリオレウスが塔の周りを飛び、幻獣キリンが住処にしていると言われていた。そんな場所がそれまで知られていなかったのは、道を作るなんて大規模な開発がそれまで行われなかったからだ。そして、その後の塔の内部の調査でわかったのが最奥地、塔の頂に君臨するらしい女王『ナナ・テスカトリ』の存在。その龍は蒼い体毛を持ち、灼熱の熱気をその御身に帯びて、百獣の王ライオンをもその姿の裏にみせる、龍の中の龍、古龍……」
 2人は今聞いたことを何とか頭の中で整理しようとしていた。
「……てことは、てことはだよ?!あの蒼い龍、もといナナちゃんは、その古塔からここまで下りて来たってこと?!」
「むぅ……、そういうことになるだろうな。しかし、ユウジ。アレをどうするつもりだ?俺でも話くらいは聞いたことがあるぞ。古龍は並みの竜とは比べ物にならないほどの生命力を持つと聞く。俺達の手には負えないだろう?ましてやこっちは3人だ。最低でも4人のベテランが必要じゃないだろうか?」
 ユウジは一瞬、空を見つめたかと思うと目を輝かせて言い放った。
「逃げようっ!!」
「……はっ?それが眼を輝かせて言うセリフかなぁ?」
「しかし、それが今現在、我々にできる最善の行動だ。」
 ユウジとディアは同時に岩陰からナナをの様子を伺おうと身を乗り出した。
「……っ!?」
「……なにっ?!」
 今までナナのいた場所に彼女の姿はなかった。
 しかし、あまりの熱さに耐え切れずに、彼女の舞い降りていた場所の岩石が溶け出していた。
 グォォォ…!
 嫌な予感。それは無情にも当たっていた。
「上かぁぁぁぁ!!」
「上だっ!!」
「えっ!?なになに?!?!」
 ミリア以外の二人は同時に気づいた。
 ディアは横に飛びのき、ユウジはミリアを抱えて跳んだ。
 ギャゴオオオオオオオオオオ!!!!
 灼熱の炎が地面を焼いた。触れても居ない場所までがあまりの熱さに耐え切れずに、溶け出だした。
 どうやら、3人の話は耳の良い古龍には筒抜けだったようだ。
 ハンターの存在に気づいていて、それでも自分の獲物を味わい続けるとは……流石、古龍の風格というやつか。
「うひゃ〜……何アレっ?炎が当たった場所なんて蒸発しちゃってるよ?!」
「あれは…危険だな……。うむ、危険だ」
「確認なんてしてないで逃げるぞ!!!!」
 ユウジ達はそれぞれの手に持った緑の玉を地面に投げつけた!
「っとその前に♪」
 ユウジに抱きかかえられながら、彼女は強い臭いを放つピンク色の玉をナナに投げつけた。
「行くぞっ!」
 ユウジは地面に緑の玉を投げつけた。それはモドリ玉と言われる、不思議なアイテムだ。

 いつの間にかキャンプに辿り着いた3人は、ほっと一息ついた。
「むき〜〜〜〜〜〜!一体なんなのよアレは?!あんな炎に当たったら無事じゃすまないわよっ!?」
「ふむ……。ここは一旦、村長に話を聞くべきじゃあないか?」
「そうだなぁ……。癪だが、リタイアしようか……」
 ユウジ達はベッドの近くにまで行き、リタイアの狼煙を上げた……。


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