酒場の英雄

第一章 「女王の棲まう土地」


 グォォォ…ォォ……
 不気味な咆哮が火山の火口奥地から木霊する。

 ある辺境の村に一人の熟練ハンター(自称)がいた。
 彼はドンドルマという巨大な王都にてクエストを受け、この村の発展を任されたのであった。
「まぁ発展と言っても、俺は飛竜を狩るだけなんだけどね……」
 ハンターの名前はユウジ。HR177のベテランである。
 装備は親父の遺品である全身ミラルーツ装備。ちょっとした自慢だ。
 この世に存在する装備において、これ以上の物は無いと言われる程の防具である。
 そんな彼の得物は龍壊槌。老山龍と呼ばれる巨大な龍から、希に剥ぎ取れる紅玉という宝石をあしらった『龍殺しの武器』である。
 そして、そんな彼の背負う肩書きは『ギルドの最終兵器』。ギルドの中でも、特に力と貢献度が高い者のみが名乗れる称号である。
 何故に彼の様なハンターが、こんな村に派遣されたかと言うと、今までにギルドが派遣したハンター達がこの村の周辺で皆が皆、行方不明になっているからである。
 村人達曰く、クエストを受けて密林に向かったきりハンター達は帰ってこないらしい。
「大型の飛竜か……?しかし、並の飛竜なら今までのハンター達でも狩猟できたハズだ。やはり一人では荷が重いのだろうか?」
 まぁ、彼は考えることをやめた。
 なんにせよ、事が起きれば必然と情報は入ってくるものだと考え直したのだ。

 彼が村に訪れてから、数日が経った。村の生活にも慣れ、密林の地形を知るためにも彼はリオレイア狩猟のクエストの依頼を承けた。
 その時彼は、なんの変哲も無い普通のクエストだと思って受注したのであった。
 しばらく村の漁師の船に乗せられ、揺られている内に密林のキャンプ場に着いた。
 辿り着いてから直ぐにレイアを探し始めた。
「日が暮れる前に片付けよう」

 日が丁度頭の上に通りかかった頃だった。
(……いた!)
 レイアは密林奥地にある池の水を飲み休憩しているようだ。
「む…!!こっちは風上か!」
 レイアはユウジの臭いを嗅ぎ付けて、後ろを振り返った。
 グウオォォォ!!!
 レイアは一吠えし、ユウジに向かって突進してきた。
 ちっ、舌打ちをしながらも慣れた動きで攻撃をかわす。
 すかさず後ろに回りこみ、右足に一撃。しかし、レイアはひるまない。
 いつもと手ごたえが違う気がした。
 ユウジは少し距離をとる。
(この違和感はなんだ?こっち地方のモンスターは独自の成長をしているのか?そんな話は聞いたことがないぞ……)
「どうなっているんだ……」
 違和感を覚えながらもレイアに向かう。
 火炎弾を吐こうとしているレイアに走りこみ、頭から鉄槌を食らわす。そのまま後ろに抜け、さらに右足に三発。
 バランスを崩したレイアに間髪いれず攻撃しようと大きく振りかぶる。
 が、そこに予想していたレイアの姿は無い。
「何っ!?」
 見失ったレイアの尻尾が風を切ってユウジの手を掠める。
 ユウジの腕から龍壊槌を弾き飛ばし、バランスを崩したところでレイアの全体重を乗せた体当たりに弾き飛ばされた。
 レイアの眼光が彼を追う。レイアは再び走り出した。
 ユウジは起き上り様に横へ飛び、龍壊槌を拾う。
「ふぅ……ちょっと甘くみてたよ」
 自慢の鎧のお蔭でダメージはそれほど無い。
 久しぶりに楽しい依頼だ。目的は今目の前にいる雌火竜の狩猟……いや、討伐だ。

 一旦、レイア側に向いた流れを取り戻そうと、即座に高台へと上る。
(この高さならばレイアの攻撃は届かないハズだ……)
 回復薬を飲み、砥石を使おうと屈んだ瞬間。
 刹那。
 レイアの尻尾が空を切り裂いて、ユウジの頬をかすめた。
「…………っ!!」
 レイアの尻尾は辛うじて、急所を外したが、それも束の間。
 もう一閃。今度はユウジの腹に直撃した!
「……ぐっ!!」
 完全に意表を疲れたユウジは隣のエリアまで吹っ飛ばされてしまった。
「くっ……俺が致命傷になるほどの一撃を食らうとはな……」
「ツっ!!!!」
 ユウジの鎧は傷一つ付いてはいなかったが、衝撃は十分以上に伝わってきていた。
 人間の体で耐えられるハズのない衝撃を受けて立っていられるのはハンターを生業として生きてきた彼の体のおかげか。
 と、その時。彼の周り、いや、彼のいるエリア全体に「白い粉のような物」が舞い始めた。
 その粉に触れた部位は一瞬光って、傷が癒えていった。
(……これは……生命の粉塵か!)
「誰だ!!!」
 ユウジは隠れている使用者に向けて怒鳴った。
 そう。生命の粉塵は、使用者のエリアにいる人を全員、回復させるといわれる、最高ランクのアイテムなのだ。
 だからして、粉塵を使ってくれる人がいなければ……である。
「……そんなに大声を出さなくてもいいんじゃないカナ?」
 彼女は、エリアの入り口に立っていた。
「さっきのレイアが気づいて飛んできちゃうかも。まぁ、彼女はとっくに気づいてると思うケドね」
 粉塵の女はニッコリとユウジに笑いかけた。
「生命の粉塵を使ってくれたことには礼をいうよ。しかし、君は誰なんだい?どうして俺を救った?」
「お礼はいいよ♪私の名前はミリア。ドンドルマから派遣されてきたんだけど……ン?」
 ミリアは何かに気づいたように当たりを見回した。特に、頭上を。
「……アラアラ、どうやら彼女はあなたを逃がす気は無いみたいネ♪」
「みたいだな」
(おいおい、彼女もドンドルマからきたのかよ……。一体、この密林で何が起こってるというんだ?!ギルドマスターも詳しく教えてくれりゃあいいものを、時間が無いやらなんやらで、はしょりやがって……)
「おい、君は逃げたほうがいいんじゃないか。さっき戦った時、あのレイアは他の雑魚とは一味違う気がした」
「なーに言っちゃってくれんの?何で私が君を助けたと思う?最後まで付き合うわよ♪」
 と、言って彼女は背中に背負っていたボウガンを取り出した。
(!?……繚乱の対弩?何であんなにレアな装備を持っているんだ……?)
 と、そんな事を考えていると、レイアが頭上から降りてきた。
「さて、いっちょやったりますか〜〜〜〜!!」
「油断するなよっ!?」
「わぁかってるって〜♪……ほーら、まずはビリビリさせちゃうよ〜ん!!!」
 と、彼女はいきなり持てる数だけの麻痺弾をLv1〜2まで打ちつくす勢いで放った。
 グゥゥゥゥォッ!!
 レイアは見事に空中で痺れ、不時着した。
「今よ!!ユ・ウ・ジ君♪」
(なんで名前を知ってるんだよっ!ってのは置いておいて……)
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」
 最大にまで力を溜めたハンマーの一撃がレイアの頭骨を砕く。
 バキバキ!!!!
 嫌な音を立ててレイアの頭が拉げる。
「まだまだ!!」
 麻痺が解除されないうちにユウジはハンマーの十八番、3段攻撃を繰り出す。
「ふんっ、ふんっ、とぉりゃあ!!!」
 レイアは堪らず気絶し、転倒した。
 この攻撃を受けて死んでいないのは、飛竜族に備わっている、強力な蘇生能力によるものだ。数分眠るだけでも、空を飛べるくらいの力なら回復できうる。
 しかし、彼の持っている武器は「龍殺しの武器」だった。
 そんな飛竜の能力を根本か根こそぎ奪ってしまう。故に「龍殺し」。
 叩く度に黒い稲妻のような閃光が走る。
 と、そこにミリアが叫んだ。
「どいてっ!!」
 ユウジはヒラリと緊急回避しレイアの側から離れた。
 間一髪。ミリアの放った拡散弾がレイアの頭上で爆発、拡散した。
 ボガッボガボガッボガボガガーンンッ!!
 その威力ときたら凄まじい。レイアの翼爪から頭の甲殻に至るまで、全てをぶっ壊してしまった。
 そんな威力を受けたレイアが無事なはずがない。
 グオオオオオオオオオォォ!!
 一声。断末魔の叫びを上げて、彼女は地面に伏し、二度とその脚で大地を踏みしめる事は無かった。
「やったねっ☆私達の大勝利!!」
「……やれやれ」
 ユウジはミリアのはしゃぎ様を横目で見ながら、レイアに手を合わせた。

 ユウジとミリアは、レイアから剥ぎ取った素材を村に持ち帰った。
 残ったレイアの死体はそのままにして置いてきた。
 いずれランポス達の餌になって自然に帰るだろう。モンハンの世界はいつも決まってそうである。
「村長さ〜〜〜〜〜ん!」
 ミリアは酒場に着いて早速、今回の手柄を報告しようとしていた。


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